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スノーボードへの誘い ~道中編~  【580ぴーや】

2017/02/23  |  小田崇之

【登場人物】

 

t1

★WなべTいち

私よりも3つくらい下の独身ディレクター。

覇気がない目をしていることが多いが、急にテンションが上がることも。

盛り上がりすぎて、過去に、

「いや、小田さん!だからね!ま゛め゛!ま゛め゛まっ!!」

と意味がわからない言葉を発したことがある。

 

★小田

 

 

 

私は決して上手くはないがスノーボードが好きだ。

友だちもそんなにいないため、昨シーズンも1人で3度ほど行った。

今年も正月からの仕事が一段落したため、そろそろ行こうと思っていた。

 

そんな時、社内で偶然会ったTいちに話をしてみたところ、

「え”っ!いいですね!行きましょう行きましょう!」

と意外にも乗り気。

続けざまに彼は、

「じゃあ、小田さん。僕が車出すんで!」

と言ってきた。

 

彼は4WDのSUV車に乗っている。

まさにスノーボードに行くための車である。

「悪いな、じゃあよろしく」

と、Tいちに頼み、『当日は朝の9時に会社を出よう』と決めてその日はわかれた。

 

 

 

行くと決めた前日の夕方、彼から電話がかかってきた。

「あ”、小田さん、明日9時って言ってたんですけど、7時出発にしましょう!オレ、昨日車検出したんすよ。18時にそれ取りに行かなきゃいけないんで!」

 

 

・・・・は??である。

Tいちは何故、このタイミングで車検に出してしまったのだろう?

こいつギャグを狙ってんのか??

とツッコミたい気持ちは抑えつつ、彼の話を了承する。

せっかく「行きたい!」とノリノリになっている彼の想いに水をさすわけにはいかない。

 

その時私は飲み会に出ていた。

「小田さん、明日寝坊なんかしないでくださいよ~(笑)じゃあ明日7時会社発で!」

と、彼に言われ電話を切った。

 

これが、Tいちの壮大な“フリ”であった。

 

 

 

 

当日朝6時、私は誰もいない会社に来た。

久しぶりのスノーボードという興奮もあり、なかなか眠れなかった。

しかし、初めて行くTいちには、素敵な思いをしてスノーボードを好きになってほしい。

そのために先輩とはいえ私が遅刻をするわけにはいかない。

 

ウキウキする気持ちを抑えつつ7時を待つ。

気がついたら、上から下までスノーボードウェアに全て着替え終わっていた。

サングラスまでかけていた。

全く気持ちを抑え切れていなかった。

 

そして、また待つこと20分。

6時58分に携帯が鳴る。

Tいちからだ。

先輩として、浮かれた気持ちを悟られぬよう電話に出る。

 

「あ、もしもし~♪ゴメン、駐車場ついた~??♪今から降りるけん♪」

 

・・・全然抑えきれていなかった。

 

しかし、電話先のTいちは慌てていた。

「あ”っ!お、小田さんですか!?すすすんません!い”ま起きたんで!いま、いま、いまからすぐい”きますから!!じゃっ・・・」

 

 

 

やってくれたなTいち。

寝坊である。

前日からの壮大な、そしてコテコテのオチである。

 

ただ、Tいちとの付き合いも短くはない。

これも想定の範囲内である。

前日にある程度予想はできていた。

 

熱いコーヒーを飲みながらアナウンス部で待つ。

 

15分後、扉が開く。

ラジオ制作の女の子が入ってきた。

 

そこには休日の早朝、会社には不釣合いの、あきらかにウィンタースポーツに行く気満々でコーヒーを優雅に飲む先輩の姿があった。

 

「・・・・小田さん、お出かけですか?お気をつけて」

 

取材とは微塵も思わないあたりが、この後輩も私のことを実によくわかっている。

 

 

 

そして7時30分。Tいちがやってきた。

代車は信じられないくらいかわいらしい、白の軽自動車であった。

 

そこに30代の男2人が乗り込む。

 

そうして車は九重森林公園スキー場を目指す。

 

 

 

出発してすぐに、ガソリンメーターに私の目がいく。

15本くらいあるガソリンの線が残り3本であった。

車は代車のため、ガソリンがあまり入ってないのである。

まだ大分市内中心部。

 

「Tいち、ガソリン入ってないやん。どっかで入れていこーぜ」

というと、彼は、

「ダイジョブです、ダイジョブです!やばくなったら寄りますから!スノボたのしみだな~行きましょう♪」

と。

 

これもやはり“フリ”であった・・・

 

 

車は県道537号。

湯平温泉を越え、やまなみハイウェイを目指す山道の上り坂が続く。

こっちはガソリンメーターにしか気がいかない。

しかし、Tいちはノリノリで山道を走る。

エコドライブを表す葉っぱマークが5つついていたが、その葉っぱが1つもつかない豪快なアクセルワークである。

 

そうして5分後。

楽しそうに話していたTいちが急に大声を上げる。

 

「やべっ!小田さん!ガソリンが残り1本しかねえ”!!!」

と。

 

周りは見渡す限り森の中。

「Tいち!エコ運転!エコ運転!!」

と私も叫ぶ。

 

そのあと少し冷静になったTいちが言う、

「で、で、でもダイジョーブです!オレ、JAFに入ってるんで♪

と。

 

違う、Tいち。

そーいう問題じゃないよ・・・

とにかくエコ運転で徐々に人里におりていく車。

 

ガソリンガ無いなか、休憩だけは頻繁にはさみたがるTいち。

朝日台レストハウスで車を停める。

朝の澄んだ空気に映し出される山並みに興奮気味のTいち。

 

そのあと車を走らせ始めると、また彼が騒ぐ。

「やべっ!小田さん!!ガソリンが2本に増えた!!イェ~イ!♪」

と。

 

Tいちよ、坂道に車を停めるとそうなるのだよ。

そんなことは良いから、早くガソリンスタンドに行ってくれ。

と彼を諭す。

 

 

そしてついに我々はガソリンスタンドを見つけた。

「Tいち!スタンドっ!スタンドっ!!」

私も声を荒げる。

Tいちはスタンドに車をつける。

 

 

時刻は午前9時過ぎ、外に人はいなかった。

が、あきらかに人の気配はする。

(よかった・・・これで助かった・・・)と私は安堵する。

 

しかし、なかなか人が出てこない。

 

「Tいち、俺人呼んでくるわ」

と、降りようとすると、Tいちが、

 

「ん”!まだ開いていないかもしれませんねっ!先行きますかっ!!」

と車を出すTいち。

 

 

私は彼が信じられなかった。

彼はこの状況を理解できているのか?

理解できているとすれば、なぜそんなことができるのか?

 

 

Tいちを静止しようとした瞬間、お店から女性が走って出てきた。

 

「Tいち!人!!ヒト~!!!」

私が叫ぶ。

「お!いたっ!!」

とハンドルを左に切るTいち。

 

結果、広いスタンド内で大きく左に弧を描いて、車は元の位置に戻る。

どうやら9時から開いているようだ。

(あぶね~、こいつマジで冒険者かよ・・・)とハラハラしている私の気持ちなど彼には全く伝わってはいない。

 

「今から僕たちスノーボードに行くんですよ~♪」

「あら、今日は天気が良いからいいですね~♪」

とスタンドの女性と楽しそうに話をしている。

 

 

「よしっ!ガソリンもたっぷり!行きましょう小田さん♪」

と、ご機嫌にハンドルを握るTいち。

先ほどよりも、さらにうなりを上げる軽自動車のエンジン音。

 

そんな彼を見ながら私は思った。

「こいつ、ぜったいモテないだろうな・・・」

と。

 

決して人のことは言えないのは分かっている。

こうして30代の独身男2人を乗せた、かわいいかわいい軽自動車は、九重森林公園スキー場へ向かっていくのであった。

 

 

また、書く気になれば続くのであった。

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