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25年目の弦楽四重奏

クラシック音楽が大好きな方にも、深みのある人間ドラマを愛する方にも、お勧めできる秀逸な作品である。
NYにある世界的にも有名な弦楽四重奏団<フーガ>は、年長のチェリスト・ピーターをリーダーに鉄壁の信頼関係を結んだカルテットとして評判が高い。
第一ヴァイオリンのダニエルの正確無比な演奏は、世界中の聴衆を魅了し、その深い音色を第二ヴァイオリンのロバートが天才的な質感とリズムで補佐する。聴く者の心に染み入るような演奏をするヴィオラのジュリエットは、ロバートの妻である。そしてチェリストのピーターは、その三人の個性的な演奏を調和させる役割を持つリーダー。
が、結成25年を迎えた年、突然ピーターが引退宣言をする。ピーターは難病のパーキンソン病を患っていたのだ。しかも25周年記念の演奏曲は「ベートーヴェン弦楽四重奏曲第14番」。この曲はベートーヴェンの最晩年に作られた曲で、全7楽章を途切れることなく演奏する[アタッカ]で、演奏者にとって途中でチューニングができないまま、微妙に歪んでいく音程のなかに調和を探しつづけなければならない、という最難曲なのだ。ピーターのしびれはじめた手では、この難曲を統率し制御することができない。信頼できるチェリストを選ぶピーターの決意。手塩にかけた四重奏団を存続させるための決断であった。しかし、動揺した三人の仲間としての調和が崩れはじめた。天才肌のロバートが、これを機会に第一ヴァイオリンを曲によって自分がやりたいと言い出したのがはじまりだった。父とも慕うピーターの引退宣言を悲しむジュリエットは、夫ロバートを非難する。ダニエルは、音楽のためにジュリエットを諦め独身を貫いていたが、ジュリエットの娘アレクサンドラに母の面影を求め微妙な関係に陥る。柱を失いバラバラになっていく四重奏団の心。[アタッカ]を演奏するときのように、微妙に歪んでいくそれぞれの音色を調和させることが、実生活においても出来るのか?老チェリストの最後の演奏会のおける決断とは・・・?
長い人生の間につもり積もってきしんでいく人間の心を、ベートーヴェン最難曲に暗喩させるかのように紡いでいくこの作品は、人間の心の複雑な陰影をあぶり出しながら、必死で調和を探していこうとする人間関係の襞を詳細に冷徹な表現で描いていく、人間ドラマの秀作となっているのだ。
ぼくのチケット代は、2,500円出してもいいと思う作品となっています。
星印は、4つ半さしあげます。


[ 4.5 点(5点満点)・ 2500 円(1800円基準)] 5点満点中4.5点 2500円
衛藤賢史のシネマ教室について…

“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。

星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)

【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動

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