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アベノミクスとは?

先日参議院選挙が終わりましたが、本日は、今回の選挙の争点にもなった「アベノミクス」についてお話したいと思います。

アベノミクスとは、言うまでもなく、安倍政権が打ち出している経済政策の総称で、「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、そして「民間投資を喚起する成長戦略」の3つの柱、「三本の矢」と言われていますが、によって構成されるものと理解されています。このうち、初めの二つ、すなわち「大胆な金融政策」と「機動的な財政政策」については、既にその政策が実行に移されています。

「第一の矢」である大胆な金融政策については、先般ご説明したように、本年4月の日銀金融政策決定会合で、「2%の物価目標」を「2年を念頭にできるだけ早く達成すること」を目標とし、そのために「マネタリーベース」を2年間で2倍とし、その手段として国債保有額・平均残存期間を2倍以上にし、ETFやJ-REITの買入額も増額することを決めました。海外を含め過去に例を見ない規模の、まさに「異次元」といえる金融緩和となっています。加えて「第二の矢」である「機動的な財政政策」に関しても、本年5月15日に成立した平成25年度予算は、一般会計総額92兆6115億円と当初予算として過去最大、補正予算と合わせると100兆円を超す支出となっています。

残る「第三の矢」である「民間投資を喚起する成長戦略」に関しては、本年6月に全体像が打ち出され、全体目標として今後10年平均で実質GDP成長率2%、10年後に一人当たり国民総所得を150万円以上増加、といったポイントが明らかにされています。そのために「国を開き強くする」政策、国家戦略特区で規制緩和を行うなどの企業活性化策、そして「待機児童を零にする」といった暮らしをサポートする内容が明らかにされていますが、そのための具体的な施策を打ち出すのは参議院選挙が終わったあとという受け止め方が主流です。

「現時点で必要と考えられる措置は全て採った」金融政策、持続可能性に配慮すればいつまでも継続できないことは明らかな財政政策、という第一、第二の矢を勘案すれば、今後注目されるのは、この第三の矢でどのような具体的な成長戦略が打ち出されるかです。もともと、急速な少子高齢化の進展に伴う生産年齢人口の減少という重い足枷をはめられた日本経済が再生するには、金融・財政政策というマクロ政策での対応だけでは不十分です。

すなわち、実質経済成長は就業者数の変化という要因と、就業者一人当たりの生産性という二つの要素に分けることができますが、これまでと同じ状況の継続を前提とすると、就業者数の変化という要因だけで、我が国の実質経済成長は、2010年代で▲0.6%程度、2020年代で▲0.8%程度、2030年代になると▲1.2%程度、下方に引っ張られることになります。足元もそうですが、経営者の立場に立つと、需要が増えないという見通しが強いと、なかなか新規に設備投資したり、雇用を増やしたり、あるいは従業員の給与ベースを引き上げる、といった判断を行うことは困難です。デフレ環境から脱却し、日本経済が持続的な成長軌道に乗るためには、生産性向上のための投資や、雇用・所得環境の改善が不可欠であることを勘案すると、まさに先々の需要増加期待が生じるかどうかが今後の経済運営のカギとなります。

このように考えると、第三の矢である成長戦略の目指すものこそ、「需要増大期待」の創出・拡大であり、それは、繰り返しになりますが、急速な少子高齢化が進展し、生産年齢人口の急速な減少に直面する我が国にとって、困難ではありますが、必要不可欠な政策です。そのためには、何が必要か。先ほど述べた成長の二つの要素、すなわち「働き手の数」と「働く人一人一人の生産性向上」の双方での構造改革が必要です。まず「働き手の数」という問題に関して言うと、なかなか大規模な移民に対する国民的な感情が統一化されないもとでは、米国を含め多くの国が実践している移民への依存は現実的ではありません。そうなると既存の人口でどれだけカバーできるかが勝負になります。この点、日本には対応できる十分な余地があります。すなわち、労働力としての女性の活用です。我が国の女性の労働参加率をみると、進学率の高さを映じて15歳程度の労働参加率は低いですが、20歳から25歳くらいまでの労働参加率は他の先進国と比べて引けを取りません。但し、その後30歳くらいになると、結婚・出産というイベントを受け、急速に労働参加率が低下し、子育て負担が軽減する45歳くらいで一旦戻りますが、また55歳くらいになると介護の問題が生じて、急速に低下します。仮に日本の女性の労働参加率が、2030年までにスウェーデン並みまで上昇し、高齢者の労働参加率も相応に上昇するとの仮定を置けば、2010年代の労働力人口は、前述した年率0.6%の減少でなく、0.2%の増加に転じます。保育所に入れたくても入れられない「待機児童」の数が「全国一」であったにもかかわらず、わずか3年ほどで待機児童ゼロまで持っていった横浜市の例などを踏まえ、今後より一層女性が働きやすい環境作りに向けて効果的な施策が採用されることが期待されます。

また生産性の向上も避けて通れない課題です。生産性という言葉の響きからは、技術的な生産効率の向上と言う面が強調されがちですが、そうではなく、要はニーズの高い財・サービスを作ること、そしてそうした分野に人・モノ・カネといった資源を移動させることが重要です。この面では外需の取り込みと内需の拡大の両面での努力が必要になります。急速な経済発展をとげるアジアに近いという利点を有する当地には、まさに重要な視点と言えましょう。たとえそれが現地生産の増加であっても、日本人の稼いだ所得として認識されます。そして日本人の所得増は国内の需要増につながります。積極的な海外進出は、今後拡大していく海外需要を取り込む観点から不可避です。

内需開拓という面では、高齢化という今後避けて通れない世の中の変化をいかに前向きの需要につなげていくための努力を行うかが極めて重要になります。拡大する高齢層を中心に多様化するニーズに対して、企業がこれを的確にとらえ、今存在しなくとも高齢者にとって有益な財・サービスを提供することができれば、仮に高めの価格設定を行っても十分世の中に受け入れられる「ブルーオーシャン」の世界が拡がっているのです。今後さらに急速に進展する高齢化に対して、まちづくりも含め、まだまだ行われるべき施策は多いように思います。

日本のような大規模な成熟経済になると、経済を一気に回復させるような万能薬や、魔法の杖は存在しません。需要の拡大を妨げている岩盤のような既得権益を一つ一つ解放していく地道で面倒な努力を通じてしか成長は確保できないと思います。アベノミクスの3本目の矢として打ち出される成長戦略で、こうした課題に適切な対処が行われ、「需要増加」に向けて前向きな期待が高まるような「異次元」の構造改革策がとられることが望まれます。