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物価のはなし

今回は、物価の話をできればと思います。

以前も物価についてお話しした事があり、その時は、世の中、虫の良い話はなかなかありませんので、物価と給料が一緒に上がる世界か、一緒に下がる世界のどちらかしか選べない。物価と給料が下がる世界では、企業が採用を減らしたり、企業が投資を控えたりして経済活動の停滞にも繋がるので、避ける必要がある。

まず、給料が下がるのはなかなか辛いものですので、経営者としてもなかなか下げ難い。そうすると、物価が下がる世界では、物価と給料が両方とも下がっている場合でも、給料の下がり方の方が小さくなりがちです。そうすると、実質賃金が上昇する。これは、働く人にとってはよいことですが、企業にとってはコストが上昇することになり、コスト全体を抑えるために、今度は採用を絞ることになる。物価と給料が同じ幅で下がっていけば採用を絞る必要はないですが、給料が下げ難いので、採用を絞らざるを得なくなる。仕事に就けない人が増えると、消費が減って生産活動が停滞することになってしまいます。さらに、職業技能を身に付ける機会が失われることによって、労働力の質を向上させる機会も失われることになってしまいます。国全体の長期的な生産力という観点からも、マイナスになってしまいます。

また、現金の存在があります。物価が下がる世界では、現金を持っていることが有利になります。例えば今1万円持っているとして、物価が下がっているのであれば、待てば待つほど、毎年それで買えるものが増えていきますので、急ぐ必要がないのであれば、買わずに待つのが合理的な行動になります。家計が現金を抱え込むと、銀行に預金した場合に比べ、銀行から企業への貸出に回される、ということがなくなってしまいますので、家計の貯蓄がうまく企業部門に回らないことになる。また、企業が現金を抱え込んでしまうと、設備投資などにお金が回らなくなり、企業活動も停滞することになります。物価が下がる場合、実際の経済活動にも影響が出てきますので、物価が上がる場合よりもさらに影響が大きくなってしまうのです。

一方で、物価が上がる世界も、特に大幅に上がる場合には、色々と不都合が起きます。物価が上がる世界では、現金を持っていると損をすることになります。例えば今1万円持っているとして、それを使わずにいると、翌年にはそれで買えるものが減ってしまうので、できるだけ早く使った方がよいということになります。あるいは、物価上昇分を埋め合わせてくれるくらいの利子が付く預金に預ける手もあるかもしれません。インフレの問題は色々ありますが、その一つは、経済取引を便利にするはずの通貨を持っていると損することになるので、みんなが通貨を持たないようになってしまう。その結果、通貨の便利さのメリットが受けにくくなってしまうのです。

そこで、本来は、物価が上がりも下がりもしない状態が一番いい、ということになります。ところが、実際には、幾つかの理由から小幅のプラスがよい、と考えられています。以下に3つほど申し上げます。

まず、物価を一定に保とうとする場合、毎月毎月、前年比0%ピッタリで微動だにしない、というように持っていくことは非常に難しい。現実には、どんなに上手くコントロールしても、月々の変動は少し上に行ったり少し下に行ったりするものです。そうした場合に、物価が少しマイナスになるデメリットと、物価が少しプラスになるデメリットを比較すると、マイナスになるデメリットの方が大きいと考えられますので、多少の糊代を持ってマイナスにならないようにした方がよい、ということになります。こうした糊代は、経験的に、2%くらいなのではないか、と言われています。

次に、物価指数には、計測誤差があって、実際よりも高く出る傾向がある、と言われています。例えば、パソコンの新製品が、旧型機に比べて性能が2割アップ、価格は1割だけアップ、ということだったとします。物価指数では同じ性能の製品で比較することになっていますので、この新製品は性能が同じである機種があったとすれば、価格上昇の1割から性能向上の2割を引いた1割値段が安くなっている筈ですよね。ところが、こうした調整、品質調整と言いますが、これは実際には難しいので、統計上、この製品は1割値上がりした扱いとされてしまう場合が多い。したがって、実際よりも統計の数字は高くなってしまう傾向がある、ということです。

そして、3つ目の理由として、政策対応の余地ということがあります。物価が下落している世界では金利は低くなり、物価が上がっている世界では金利が高くなる傾向があります。一方で、金利、特に政策金利はなかなかマイナスにはできませんので、金利には0%の下限があるとよく言われます。そうした下限があることを前提に、物価が下がっている中で、経済に対して何らかのショックが与えられたとすると、金利の引下げを行うことによる金融緩和の余地が限られてしまう。ある程度の政策対応余地を確保しておく観点からも、小幅のプラスの物価上昇が望ましいのではないか、と考えられています。

纏めると次のようになるかと思います。世の中、虫の良い話はなかなかありませんので、物価と給料が一緒に上がる世界か、一緒に下がる世界のどちらかしか選べない。この場合、物価と給料が一緒に下がる世界は、経済活動の停滞にも繋がるので避ける必要がある。月々の統計の振れをカバーする糊代や、物価指数の計測誤差、政策対応余地、といった糊代を考慮に入れると、物価と給料が小幅に上昇する世界が一番害がなさそうである。小幅のプラスとして、2%程度がよいと一般的には思われている。日銀と政府は、物価だけでなく、給料も小幅に上がる状態を目指しているのです。

(終わり)