OBS

消費増税延期のはなし2

しつこいようですが、消費税率の8%から10%への引き上げが先延ばしになった話を、もう一回させて下さい。

今回は、少々生々しい数字を入れてお話しできればと思います。

まず、「世代会計」というものを説明させて下さい。各個人が、一生の間に政府に支払う額と、政府から受取る額が幾らになるかということを、世代毎に推計するものです。週刊ダイヤモンドの6月26日号に、法政大学の小黒教授が出した推計が載っていました。小黒教授は、現在60歳代以上の世代と、現在0~19歳の人達そしてまだ生まれていない人達を含む「将来世代」との間でこの世代会計の推計を示しています。これがかなり深刻な数字に思えました。

前回、村津さんを58歳、飯倉さんを20歳ということにしましたが、今回は村津さんを65歳、飯倉さんを15歳ということにしましょう。小黒教授の推計によると、2017年4月に消費税率を引き上げた場合でも、将来世代、飯倉さんの世代ですが、は一人当たり8,221万円の負担超過、60歳以上の世代、村津さんの世代は、一人当たり3,982万円の受益超過だそうです。飯倉さんの世代は政府への支払いの方が圧倒的に多く、村津さんの世代は政府からの受取りが圧倒的に多いのです。両者の差は、1億2,000万円以上です。サラリーマンの生涯賃金を2億円とすると、飯倉さんの世代は自分の生涯賃金の4割を政府に純粋に支払いことになり、村津さんの世代は自分の生涯賃金の2割に相当する額を純粋に政府から受取ることになる、ということです。飯倉さんの世代が、村津さんの世代に貢いでいることになります。どう考えても極めて不公平ではないでしょうか?

さらに、今回の消費増税の先送りにより、将来世代は一人当たり8,265万円の負担超過に増え、60歳以上の世代は一人当たり3,990万円の受取超過に増えるそうです。すなわち、将来世代一人当たりでみれば、44万円の負担増加です。一人当たり8,000万円以上も負担している飯倉さんの世代に、さらに一人当たり44万円ずつ負担を増やせ、というのはかなりひどい話だと思いませんか?通常、不公平な状態がある場合、それを是正する方向に政策が実施されるものだと思うのですが、今回の消費増税先送りは、大幅な不公平を、さらに拡大することになるのです。

7月10日投開票の参議院選から、18歳以上に選挙権が拡大し、18歳と19歳の人達が初めて投票することができました。これまで述べてきた状況からすると、若い人達が投票することが非常に重要になっていることがお分かり頂けるかと思います。ただし、それでも18歳未満の人達や、まだ生まれていない人達には投票権がありません。一方で60歳以上の人達には全員に選挙権があるのです。大人達は、18歳未満の人達や、これから生まれてくる人達のことまで考えた責任ある投票行動が求められるのではないでしょうか?まだ投票権のない人達やまだ生まれていない人達の将来の負担を、私達は現在の政府の活動によって決めてしまっている面があるのです。そのことに関する覚悟や責任感が、私達にはあるのでしょうか?現在の政府の財政赤字は、確実に将来世代の負担になります。将来世代に対する思いやりや配慮があるのであれば、これほど巨額の財政赤字は積み上げられないのではないでしょうか?巨額の財政赤字を積み上げることを、米国などでは「財政的幼児虐待」と呼ぶこともあります。政治や経済に関する知識もない子供達を、借金で雁字搦めにしてしまってよいのか、という問題意識です。

ある人が、「今の状況は、孫のクレジットカードで買い物をしているようだ」と言っていたのですが、これは言い得て妙だと思います。買い物のメリットを享受しているのはおじいさん、おばあさんなのですが、その支払いをするのはお孫さん達なのです。ご自身のお孫さんにそんなことをしますか?

将来世代の負担を減らし、高齢者世代の受取りを減らすことが必要ということですね。もちろん、消費増税だけがその方法とは限りません。ただし、何もしないで時間が経てば経つほど、将来世代の負担は増えていきます。早めに増税をすれば将来世代の負担はその分だけ減らせるということです。個人的には、消費増税は予定通りに行いつつ、それでもこれほど大きい世代間の負担の違いをさらにどのように是正していくのか、高齢者世代の受取りを減らすのか、高齢者世代の負担を増やすのか、といった議論や検討を行うべきだったのではないかと思っております。これは、日本銀行員としての意見ではなく、あくまでも一有権者としての意見です。

個人的には、このようなことに関する政策論争が政党間で行われておらず、全ての政党がこの問題から逃げているように見えるのが非常に残念です。勇気をもって、目の前は嫌な話であっても、国民全体や国の将来を考えれば、やらなければいけないことをやろう、という機運が盛り上がることを期待せずにはいられません。

先程の例を用いれば、村津さん、もうこれ以上、飯倉さんに貢がせなくてもいいですよね?むしろ、どうやって飯倉さんにお返しするか、考えませんか?

さて、私事で恐縮ですが、東京の本店への異動が決まりました。本日夕方の飛行機で大分を離れます。後任は濵田という者です。引き続きよろしくお願いします。2年間、大変お世話になりました。皆さまと一緒に経済の様々な問題について考えてきて、とても勉強になりました。ありがとうございます。

(終わり)

 

DSC_0095

秀島支店長 2年間ありがとうございました。