修正鬼会 ( しゅじょうおにえ)
幸福をもたらす鬼
国家安隠 五穀成就 万民 快楽(けらく)の諸願成就のために、 六郷満山 ( 国東半島 の 天台宗 寺院群)で行われる年頭の法会。地元では、修正鬼会をオニオとかオニヨと呼んでいる。江戸時代には20か所以上の寺院で行われていたが、現在は3か所で行われているにすぎない。豊後高田市長岩屋の 天念寺(てんねんじ) では、毎年旧正月7日に西組と中組の寺院の僧侶たちが集まって執行している。東組では、旧正月5日の 成仏寺(じょうぶつじ) (国東町成仏)と旧正月7日の 岩戸寺 (国東町岩戸寺)とで隔年交替で実施している。
〈伝承と記録〉
伝説によれば、六郷満山を開いた 仁聞菩薩(にんもんぼさつ) が、養老年間(717〜724)に六郷28か寺の僧侶を集めて「鬼会式」六巻を授け、修正鬼会を始めたという。
平安末期の 余瀬(あまりぜ)文書 に、修正会の費用をまかなう「修正田」「修正田畠」の記載があり、 富貴寺(ふきじ) には「久安三年(1147)御修正会」という墨書銘のある男女面2点が残されている。 長安寺(ちょうあんじ) 「 六郷山年代記 」の永徳2年(1382)の項に「 屋山(ややま)鬼会 御修正会再興了」の記事がある。
修正会はその年の天下太平などを祈る年始の法会であり、 鬼会 は 追儺式(ついなしき)が変化したものと思われる。朝廷の追儺式は民衆化して節分の豆まきとなった。そして、病気をもたらす悪鬼は追い払われる。しかし、修正鬼会の鬼は人々に幸せをもたらす良い鬼で、不動明王や愛染明王の化身といわれている。民俗学では、ナマハゲ等と同様、新年の始まりに祝福を与えに来訪する一種の祖霊神と考えられている。仏教儀礼の修正鬼会の中に、日本人の基層信仰と古式の芸能が生き続けており、国の重要無形民俗文化財に指定されている。また、独特な形態と組み合わせを持つ鬼会面は、22か寺に101面残されている。
修正鬼会に類似する祭礼がある。宇佐市拝田の 鷹栖(たかす)観音堂 の鬼会は正月4日に行われる。修正鬼会の原型だといわれている(中野幡能『八幡信仰史の研究』)。武蔵町丸小野の 子供鬼会 は江戸期に始まると伝え、旧正月15日に行われる。豊後高田市大力の子供鬼会は戦時中に廃絶したが、昭和62年に復活した。同市長岩屋 重蓮坊(じゅうれんぼう)(天念寺の坊の故地)の子供鬼会も戦前まで行われていた。また、同市 加礼川(かれがわ)佐屋ノ元の鬼会は、長安寺の鬼会田の跡と考えられる水田で昭和35年ころまで行われていた。
〈現在の修正鬼会〉
現在、執行されている3か所の修正鬼会は、それぞれ少しずつ内容が違う。岩戸寺と天念寺では 災払鬼(さいばらおに)と 鎮鬼(しずめおに)が出るだけだが、成仏寺では 荒鬼(あらおに)が加わって3鬼となる。岩戸寺も3鬼がそろっていたが、ある年に鬼止石を越えて走り出た荒鬼役の僧が暴れ狂ったあげく死んでしまい、荒鬼の面は飛んで伊美の権現崎に喰らいついたため、荒鬼が欠けたという。岩戸寺と成仏寺の荒鬼たちは境内を出て家々を 廻(まわ)るが、天念寺の荒鬼たちは堂内から出ない。
《岩戸寺修正鬼会 差定(さじょう)(プログラム)》
旧正月6日、 松明(たいまつ)等の製作や鬼会面等の化粧。
旧正月7日の朝、 餅(もち)つきと講堂の荘厳をする。
「昼の勤行」@ 伽陀(かだ)、A 懺法導師(せんぽうどうし)、B 序音(じょおん)、C 回向(えこう)、
E仏名など、講堂で読経する。
「お 斎(とき)」本堂で僧侶や役付の村人たちが夕食をとる。
「 垢離(こうり)取り」堂役とタイイレたちが 水垢離(みずごり)を取る。
「盃の儀」院主とタイイレたちが本堂で盃をかわす。
「シオマツリ」堂守が塩水をタイイレに振りかける。
「タイアゲ」タイイレたちが大 松明(たいまつ)6本を馬場に立て、
阿闍梨(あじゃり)松明を先頭に 院主(いんず)と役僧たちが馬場に出て 祈祷(きとう)。
「夜の勤行」D 初夜(しょや)、F 法咒師(ほずし)、G 神分(しんぶん)、H三十二相、
1 I 唄匿 、J 散華(さんげ)、K 梵音(ぼんのん)、L 縁起(えんぎ)、M 錫杖(しゃくじょう)など、講堂で読経する。時間短縮のため一部同時進行する。
「立役」(ここから芸能的要素が濃くなる)。
1 N 米華(まいか)、吉祥天に五穀成就を祈願する。2名の僧が 香水棒(こうすいぼう)を捧げて足踏みし、餅 白米 ワラをまく。
O 開白(かいびゃく)、2名の僧が香水棒を持って踊り、立役で用いる松明の火の安全を五大竜王に祈願する。
P香水、2名の僧が香水棒を持って激しく舞い踊る。
Q 四方固(しほうがため)、院主と長老の僧が四天王を奉請。東西南北を結界して堂内に魔物が侵入できないようにする。
R 鈴鬼(すずおに)、2名の僧が鈴鬼(男女一対)に扮して舞い、最後に鬼招きをして荒々しい鬼たちを招き入れる。
「鬼走り」S災払鬼、 鎮鬼、修正鬼会のクライマッ
1 クス。災払鬼と鎮鬼に扮した僧侶が講堂で三々九度の方、二十一走飛行(鬼走り)等の秘事を行う。鬼たちとタイイレの輪の中に屈んだ参拝客の肩や背を松明で軽くたたいて加持をする。その後、タイイレと共に鬼は寺を出て、村の家々を廻って仏壇を拝み、酒食のもてなしを受ける。
「 鬼後咒(きごじゅ)」村から戻って暴れる鬼をつかまえて引き倒
1 し、院主がオクワエ( 鬼鎮(おんしずめ)の餅)をくわえさせ、おとなしくさせる。最後に 松明結儀頌(たいまつけつぎしょう)を唱えて終了。
[段上 達雄]
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