装飾古墳 ( そうしょくこふん)

芸術的価値の高い装飾古墳

〈装飾古墳の分布〉
 古墳の 石室 や 石棺(せっかん) 、あるいは横穴の壁面に彩色や彫刻が施されたものを装飾古墳と呼んでいる。その数は、これまで全国で約260基が知られているが、分布の上では熊本 福岡 大分 佐賀 長崎の5県に集中し、関東や東北地方の古墳にも見られる。このうち熊本 福岡県に約150基があり、大分県は21基の装飾古墳が知られている。
〈装飾古墳の種類〉
 装飾古墳は、赤 緑 黒 白などの顔料を用いて文様や絵を描いたものと、幾何学的な文様を彫刻で表現したものに大別される。また、描かれる場所や古墳の構造によって次の4類に分類することが出来る。
  石棺系 石室内に安置した石棺の外面や内面に装飾を施したもので、彫刻あるいは線刻による場合が多い。福岡県八女郡石人山古墳や久留米市浦山古墳などが代表的で、横口式の 家形石棺 に浮彫した直弧文や同心円文が施されている。これらは5世紀代の古墳で、九州の装飾古墳としては初期に位置づけられる。
  石障(せきしょう)系 石室を区分し、遺骸納置場所を設定するために立てられた板状の石材に彫刻や彩色を施したものをいう。福岡県久留米市日輪寺古墳、熊本県井寺古墳 千金甲1号墳などが代表的で、直弧文 鍵手文 同心円文などを中心に、 靭(ゆき)などの器物図形が加わる。日田市 ガランドヤ1号墳 では、赤と緑色による縦じまの模様を確認したが何を表現したか不明であった。
  壁画 系 石室の奥壁や側壁に彩色や線刻の文様を施したもので、文様の種類は豊富である。福岡県吉井町日ノ岡古墳は、壁面全体に同心円文 三角文 蕨手文(わらびてもん) 楯(たて) 太刀 靭などが描かれている。また、福岡県桂川町王塚古墳は、赤 黄 緑 黒の4色の顔料が用いられ、騎馬人物 靭 楯 三角文 双脚輪状文などが描かれ最盛期の装飾古墳である。大分県内の彩色を施された装飾古墳は、横穴系を除くとすべてこの壁画系に属する。
  横穴 系 横穴墓の入口前面と内部に描かれたものがあり、また彩色と彫刻を施すものがある。福岡県遠賀川流域、熊本県菊地川流域、球磨川上流域に多く分布している。熊本県山鹿市鍋田横穴は、弓を持った人物や 鏃(やじり)、楯、靭、 鞆(とも)、 鎌(かま)などが浮彫して施されている。同じく人吉市城本横穴群でも、入口前面に 奴凧(やっこだこ)形の靭をはじめ楯、 刀子(とうす) 、鞆などが浮彫りされている。これらの武器や武具類は、墓室に近寄る邪悪なものを排除しようとする目的からであろう。大分県では、浮彫りされたものは見られず、すべてが入口部に彩色が施されている。
〈大分県の装飾古墳〉
 大分県の装飾古墳は、壁画系と横穴系に分けられ、壁画系は 筑後川 上流域の日田市に4基、玖珠町に2基あり、大分市、別府市、国見町にそれぞれ1基がある。このうち玖珠町 鬼ヶ城古墳 、大分市 千代丸古墳 、国見町 鬼塚古墳 は、鳥 人物 木ノ葉などの線刻が施されている。
 彩色のある装飾古墳は、日田市と玖珠町に集中しているが、これは筑後川中流域(福岡県浮羽郡)の古墳の影響を受けたからである。玖珠町鬼塚古墳は、石室の奥壁全体に大形の同心円文が描かれ、浮羽郡吉井町日ノ岡古墳の奥壁を思わせる図柄である。また、日田市ガランドヤ1号墳は、奥壁全面にわたって人物、 鞍(くら)をつけた馬、舟、飛鳥、波を思わせるS字状文様、円文などがパノラマ的に描かれ、筑紫郡五郎山古墳との類似性が指摘される。
 横穴系の装飾古墳は、今のところ宇佐市と豊後高田市の県北地方に限って発見されている。肥後地方に多く見られる浮彫りや線刻を施したものはなく、すべてが彩色によるものが大分県の特徴である。宇佐市 一鬼手横穴 は、60数基ある横穴群の一つで、横穴入口部全面に10数個の同心円文が描かれている。また、豊後高田市 穴瀬横穴 では19基の横穴墓のうち7基に文様が描かれているが、一鬼手横穴と同様に入口部前面に同心円文が描かれており、両者の共通性がうかがえる。これに対し、宇佐市 貴舟平(きふねびら)横穴 は、同心円文のほかに6つの蕨手をめぐらした双脚輪状文が描かれ、宇佐市 加賀山横穴 では「火」字形に人が手足を広げて踊っているような図柄がみられる。しかもその一つ一つは細かい黒線で縁取りされ、見る者に威圧を与える。
 古墳に装飾が施される目的は、単なる装飾的な美観からではなく、それを描くことによって 呪術(じゅじゅつ)的な効果を発揮したものと考えられる。そしてその変遷は、一般的な傾向として直弧文を主とする幾何学的図文から靭や舟などの器材 器物を主とする段階にすすみ、最後の段階に人物 鳥 舟などの図文が組み合される。大分県の装飾古墳は6世紀後半にはじまり、7世紀前半で姿を消す。
 参考文献 小林行雄『装飾古墳』
[渋谷 忠章]

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