温泉 ( おんせん)

地溝を満たす深層熱水

〈温泉とは〉
 温泉法による定義では、地中から 湧出(ゆうしゅつ)する天然水のうち、温度が25℃以上、あるいは溶存物質が規定以上含まれているものを総称して温泉というが、ここでは、温度の高い地下水という意味だけに用いることにする。もちろん、過熱水蒸気の形で噴きあがる噴気や、液体の水が沸騰しながら噴出する沸騰泉も含まれる。多くの場合、新しい火山活動に付随したものであるが、火山と直接の関係がなくても、地下深くまで掘削して温かい地下水を取ることができた温泉もある。
〈大分県の温泉の分布〉
 大分県は、わが国屈指の温泉県である。 別府温泉 からくじゅう山地を経て阿蘇火山に至るやまなみハイウェイに沿う地域には、火山や温泉が多い。 九重連山 や 伽藍(がらん)岳 、 鶴見岳 などの山腹では噴気孔から立ち登る白煙が遠望され、山間のあちこちに温泉が湧出している。別府温泉やくじゅう山地など、大きい 地熱 系の地域では、掘削井戸から高温の熱水が蒸気とともに噴出しており、 地熱発電 にも利用されている。そういう 熱水 は、塩化物イオンを豊富に含み、世界各地の地熱開発井に共通した食塩泉型の水質を持つ。 地質構造 的には、九州中部は、東北東−西南西の方向に横切る基盤の沈降域( 別府−島原地溝 )である。 別府湾 から 阿蘇山 にかけては、火山や地熱活動の活発な地域がその 地溝 の中心軸に並ぶように分布している。
 地溝の範囲内で、火山 地熱活動帯の南北両側には、古い時期からの 火山噴出物 が厚く堆積した平野や盆地がある。温泉徴候の顕著でなかったそういう地域で(大分市、挾間町、庄内町、宇佐市、院内町、 安心院(あじむ)町、 日出(ひじ)町など)、近年、600mから800mと、深く掘削することにより浴用に充分な温度の温泉が得られるようになった。採取される温泉水には、往古から堆積地層中に閉じ込められていた化石海水、化石陸水とも言える水質のものもあり、地熱系深部に共通した食塩泉型の熱水組成とは違ったものである。このような、地下深くに長期にわたって閉じ込められた温泉水は 深層熱水 と呼ばれる。九州中部を横切る地溝の深部には、深層熱水型と高温食塩泉型の2種類の熱水が分布し、その関連が注目される。
〈深層熱水型温泉〉
県内で深層熱水型温泉の開発が進んでいる大分市などでは、地下温度が深さ100mあたり6℃前後の割合で直線的に増温しており、その増温割合はどこでもほぼ同様である。地温が深さに対して直線的であることは、深部からの熱流が熱伝導によって支配されており、地下水が上下に動きにくい状態にあることを示す。温泉水には、塩化物や炭酸成分を著量に含むものと、含有成分量が極めて少なく、時に茶褐色を呈するものとがある。こういう極端に異なる泉質が同じ地域でも深さにより 明瞭(めいりょう)に分かれて分布する状態は、幾重にも成層した水成の堆積地層中に長く閉じ込められた往古の海水や陸水の影響を示すものと考えられる。
〈地熱発散型温泉〉
高温の温泉地域では、山地側に 地獄 とよばれる自然噴気地帯(地熱地帯)、その下流側の谷間や扇状地などの低地部に温泉湧出地帯と、連続して分布する状態が多い。これらは、地下深部の 食塩泉型高温熱水 が液体のまま、または、それから沸騰した蒸気として、地下水に混合することにより形成されるものであり、 地熱発散型温泉 の典型である。食塩泉型熱水は、地中で沸騰して蒸気やガスを産出するが、山地部では、蒸気として以外、液体のままでは浅層まで上昇しきれないため、低地部に至ってはじめて地下水中に混入して塩化物成分を含む温泉( 熱水性温泉 とも呼ばれる)を作ることができる。一方、高地部浅層の温泉水は、炭酸成分や硫酸成分など、地下蒸気から熱や二酸化炭素、硫化水素などのガス成分の供給を受けて作られた泉質のものがほとんどである( 蒸気性温泉 と呼ばれる)。これら、蒸気性、熱水性両温泉水はさらに下流に行くにしたがい、互いに混じって、さまざまな泉質の温泉水に変化してゆく。
こういう地熱発散型温泉域の形成には、深部からの高温熱水や蒸気の上昇通路となる 断層破砕帯 が主要な役割を果たしており、断層はまた浅層の地下水を深部に送り込み、大量の温泉水を作る役割も担っている。地熱発散型温泉は、このように、縦割り型の断層構造を通して深部からの地熱流体の上昇と浅層地下水の深部への浸透という循環が起こり易い地域に存在するものであり、堆積地層中に水平に貯留され、上下に動きの少ない深層熱水型温泉とは対照的である。
[北岡 豪一]

[お]メニューに戻る