天才子役といわれ、50数年間<銀幕の世界>で活躍した大女優、高峰秀子さんのエッセイ集。
子どもや弱者へのあったかい眼差しと、鋭い観察眼。全体的にはユーモアあふれた文章でありながら、理不尽なことや人の道理に外れたことに対しては、厳しい言葉で徹底的に怒りを爆発させる・・・。
エッセイを読むと、だいだいその人の性格や考え方がわかるというが、彼女は、曲がったことが大嫌いで、世話好きな、浅草あたりの下町にいるような気さくなおかみさんのイメージがピッタリ。気位が高そうな大女優のイメージからは程遠い。
例えば、この本のなかにも、戦後、仕事のために毛皮のコートを仕立てた時のエピソードが記されている。
・・・・銀座の毛皮店でオーダーしたミンクのコートを家に持ち帰ると、ポケットに小さくたたまれた手紙が入っている。開いてみると、「私は毛皮のお針子です。このコートの注文主が大好きな高峰さんだと聞いて、とても嬉しくて一針一針に心を込めて縫い上げました。私が縫ったコートがあなたを暖かく包んでくれるかと思うと、私はしあわせです」と書かれている。・・・・
毎日、毛皮工場の裸電球の下で黙々と作業をする彼女は、おそらく一生のうち自分が毛皮のコートを身に着けることはないであろう。コート一枚の陰にも、こうした人達の労力が込められていると思うと、彼らのためにも頑張らなくては・・・と、高峰さんは
何度も手紙を読み返し、苛酷な仕事にも耐えたという。
不幸な家庭環境の中で育ち、家族を養うために幼いうちから働かなくてはいけないので、学問をすることもあきらめざるを得なかった半生。戦後の映画界を代表する女優という華やかなスターの顔とは違い、私生活の高峰さんはとても孤独であっただろう。想像以上に苦労した人生だからこそ、情に厚く、思いやりのある人なのだと思う。
映画は観たことはないが、本を読んで、高峰さんのファンになった。
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