宮本輝氏の小説が大好きだ。
彼の作品を読んだ後には、心が浄化される思いがする。「錦繍」「ドナウの旅人」「泥の河」「彗星物語」「草原の椅子」「人間の幸福」「森の中の海」・・・どれも、いい。
彼の小説の魅力は、<こころざし>をもった人物が必ず登場するところにある。
<こころざし>とは、見失ってはいけない自分に誠実に生きる心のこと。
つまり、どんな環境にあっても人間の尊厳を失わず、感受性豊かに凛とした生き方をする。
今はやりの言葉でいえば、《品格》がある人ということだろうか。
物質的豊かさばかりを追求した結果、真心や正義、謙虚さを失ってしまった日本人。
社会のモラルも低下し、人との信頼や絆も薄れつつあることに、宮本氏は危機感を覚え、しばしば小説のテーマにしている。
この「約束の冬」を書くきっかけとなったのは、《日本人という国の民度がひどく低下し、大人の幼稚化が進んだことにある。現代の若者たちは、いかなる人間を規範として成長していけばいいのか、それを文章にして具現化することが小説家の使命である》と述べている。
リーダー不在、尊敬出来る大人がまわりにいない現代社会において、この言葉に同感である。
「約束の冬」には、<いい顔>の人物が登場する。といっても、目鼻立ちが整っているという意味ではなく、その人のこれまでの生き方や人徳がにじみ出た顔のことである。
かれらは、それぞれの自分の大切な人と交わした約束を果たそうと、前向きに生きる決意をする。
《人は、何を拠りどころにして生きていくのか》
このテーマを、自分の人生に置き換えて考えてみたくなる一冊である。
いつもは、多読・速読を自認する私だが、宮本氏の作品は、行間に込められた作者の思いを感じながら、じっくりと読むようにしている。 |