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長江 愛の詩

全長6300キロの長江(揚子江)を、上海から出発した古びた貨物船が上流へと旅するというシンプルな構成の中に、悠久の歴史を持つ中国への様々な思いがちりばめられた知的思考をうながす作品である。撮影を担当した台湾のリー・ピンビン(日本映画では「春の雪」05「空気人形」09「ノルウェイの森」10などがある)の水墨画を思わせる長江の撮影技術は、魂を奪われるような気持にさせられる圧倒的な映像美に満ちていた!

 

年老いた貨物船・広徳号の若き船長ガオ・チュン(チン・ハオ)は、違法の仕事を請け追って上海から長江を溯る旅に出た。途中エンジンの故障の修理中に「長江図」と記された古びた手書きの詩集を見つける。その詩集に導かれるように長江の古い町を巡るガオ・チュンは、行く先々に現れるアン・ルー(シン・ジーレイ)という女性に心を奪われる。不思議なことにアン・ルーは長江の上流で出会うごとに若々しい風貌になっていく。そんなアン・ルーと愛を重ねながら、ガオ・チュンは違法の請け負い仕事、それは希少種のヨースコー・カワイルカ(現在生息記録は皆無らしい)を四川省・宣賓まで運ぼうとするが、父の時代からの機関士シアンが逃がしてしまう。やがて船は、かっての長江を分断した三峡ダム(;93に着工し;09年に完成した巨大ダム)を機械化したシステムで越えるのだが、それを境にアン・ルーはガオ・チュンの前から姿を消してしまう・・・。

 

淡々と長江を溯る旅を描きながら、その行間には中国の悠久の歴史の中心舞台であった長江への万感の思いがぎっしりと詰まった作品であった!世界でナンバーワンの三峡ダムの完成によって邁進する現在中国の驚異的な経済発展の影で消えていった、数知れぬ文化遺産と古い町への詠嘆でもなく、そこに現実に存在する長江の有様をガオ・チュンの目線を通して見せるのみ、という演出スタイルを取りながらヤン・チャオ監督は、アン・ルーというミステリアス女性の存在を配置して「この子、何者なの?この子をどう考えたらいいの?」と、ぼくらに知的推理をうながしてくる。だから流れるように展開する長江のリー・ピンビンによる圧倒的映像美の世界に逆らいながら思考するのもよし!それに疲れたら長江の横長画面による、得もいえぬ絶品の風景に浸るもよし!そのどちらも長江なのですよ、と強制をしないのだ。撮影は困難をきわめたらしいが、長江流域の風景も楽しめながら、時の流れの中で展開する自然と人間の関係を熟慮させるヤン・チャオ監督の手腕は見事であった!
ぼくのチケット代は、2300円出してもいい作品でした。
星印は、4ッ半さしあげます。


[ 4.5 点(5点満点)・ 2300 円(1800円基準)] 5点満点中4.5点 2300円
衛藤賢史のシネマ教室について…

“映画評論家ではない”衛藤賢史先生が「観客目線でこの映画をどう見たか?」をお話するコーナーです。

星:観客目線で「映画の質」を5点満点で評価
チケット代:観客目線で「エンターテインメント性、楽しめるか?」を評価(1,800円を基準に500円から3,000円)

【衛藤賢史プロフィール】
えとうけんし・1941年生まれ・杵築市出身
別府大学名誉教授
専門:芸術学(映像・演劇)映画史
好きな作家:司馬遼太郎/田中芳樹
趣味:読書/麻雀/スポーツ鑑賞/運動

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